今年(2019年)6月に金融庁の審議会が示した報告書に端を発した「老後資金2000万」問題は、老後の資金をどう確保すればよいか世間の多くの人たちが改めて考えるきっかけになったように思います。今回のブログではシニアの資産運用について考えてみます。

退職金を運用する際の注意点

――例えば、定年を目前に控える世代なら、長く勤めた会社を退職する時に受け取る退職金の使い方で悩まれる方も多いと思います。
特にこれまで一度も投資経験がない場合は「付き合いの長い銀行からの提案をそのまま受けてしまう」ケースや、「高利回りをうたう金融商品に投資して失敗する」ケースもあるようです。退職金を受け取った時の金融商品の扱い方について教えていただけますか?

(斉藤)「退職金を受け取る時」が「給与収入の終わる時」という方が多いと思います。それ以降の給与収入が途絶えるわけで、基本的な考え方として「元本が減るようなリスクの高い運用は避けるべき」です。

シニアでも置かれた環境は人それぞれ

――なるほど。退職金ではリスクを取らない方が良いのですね。

(斉藤)はい。しかし、今は退職金を受け取ったとしても「定年延長」、「嘱託としての収入」、「副業による収入」など様々な状況が予想されます。
一概に「リスクを取るな」とは言い切れない部分もあります。

――同じシニアでも個々人によって状況は異なるということですね。

(斉藤)実は金融庁の報告書で「老後資金2000万円が不足する」と言われているのは、「収入がなく年金のみを生活の原資にしている人たち」です。
収入を継続して得られるのであれば、多くの場合「健康状態が悪くなって働けなくなる時期」と、「死亡する時期」の差は短くなり、貯蓄や運用に頼らなくてもよいかもしれません。

――確かにそうですね。

(斉藤)シニア世代と言っても個々人によって違うし、60代、70代、80代と年代によっても状況が変わってくることを理解することが必要です。

<リスクを取ることができない場合>
お勧めの金融商品 「安定した大企業の社債」

――シニアと言っても様々な違いがあることがわかりました。そのことを踏まえてシーン別にシニア世代の資産運用を考えてみましょう。
まずは、退職金で大きなリスクを取りにくいシニアにおすすめの金融商品はありますか?

(斉藤)株と比べて変動率が低く、リスクの低いのが債券です。中でも「安定した企業の発行する社債」はオススメの一つです。例えばある大手通信会社の個人向け社債は5年償還・利率1.5%以上で、数千億円発行されてすぐに売り切れました。通信を中心とした事業構造を考えると5年の間に元本を返せなくなるというリスクは小さく、且つ税引き前1.5%以上という利率は十分に高いと言えます。これは一例ですが、そのリスク負担と比較して安定した利率を確保できる金融商品は存在します。そのような商品を選ぶことが重要です。

<リスクを取ることができない場合>
お勧めしない金融商品 「レバレッジ型投信」

――逆に、これは避けたほうがよいという商品はありますか?

(斉藤)たとえば「レバレッジ型投信」です。通常は投資した金額が値動きに合わせて変動しますが、レバレッジ型の場合は指標になる株価指数の値動きを2倍、3倍に増幅して変動します。
上昇すれば、その分2倍、3倍のリターンを得ることができますが、下落すれば大きく損をすることになります。さらに、ここでは詳しく触れませんが、単純に値動きを増幅しているわけではなく、中長期で保有した場合に値動き以前に不利に働く可能性がある商品設計です。「退職金でリスクを取れない」場合には購入してはいけない金融商品のひとつです。

<リスクを取ることができる場合>
お勧めの金融商品「国内外のインデックス投信」

――今度は、退職金を受け取ったが、定年延長や嘱託、副業などで収入が続くために、ある程度のリスクを取ることができるシニアの場合です。この場合にオススメの金融商品はありますか?

(斉藤)特に退職者にオススメの商品となると、挙げるのが難しいのですが、リスクをとっても構わない性格の資金であれば、その方のお考えによってフリーハンドで考えて良いと思います。退職者がどうのこうのということではなく、一般論ですが、シンプルな商品性格のものを選ばれる方が良いでしょう。例えば、国内外の株式インデックス投信が代表的な例ですね。

――「シンプルな商品」ですか?

(斉藤)そうです。様々なオプションをつけると、その分余計なコストが発生しパフォーマンスが悪くなります。

<リスクを取ることができる場合>
お勧めしない金融商品 「ラップ口座」

――手数料の高い商品とは具体的にどのようなものがありますか?

(斉藤)例えば証券会社が運用から管理報告まで、投資を一任運用する「ラップ口座」です。お客様に合わせた個別の運用プランを提案してもらえる、という点では魅力的ですがラップ(Wrap=包む)の言葉通り、複数の金融商品が包まれていて、相応の手数料が発生することになります。

――どの程度の手数料がかかるのですか。

(斉藤)一般的な株式投資信託なら、手数料は購入時手数料や信託報酬だけですが、ラップ口座の場合は、別途投資一任受任料がかかります。

――手数料といえども大きな差がありますね。

(斉藤)あくまでも一般論ですが、例えば退職金の運用なら「株式1割、債券9割」といった保守的なポートフォリオを組むことも考えられます。ラップ口座の場合、通常はコストが低いはずの「債券9割」にも包括的に手数料が掛かり、相対的な高コストな金融商品になってしまう恐れがあります。ラップ口座自体は「お客様に合わせた個別の運用プランを提案してもらえる」という点が売り物で、必ずしもダメな商品というわけではありません。しかし、同じことをラップを使わずに行った場合との期待収益とコストを比較してみることをおすすめします。投資一任受任料の水準と、受任料の具体的なサービス内容が見合っているかどうか、合理性があるかが、購入する側からの判断の焦点です。この辺は、それほど簡単な話ではありません。

具体的に退職金の運用をどう進めたらよいか?

――ありがとうございます。退職金の運用については、「リスクを避ける」あるいは「リスクを取る」など、人それぞれの状況に応じて慎重に進める必要性があることがわかりました。
(斉藤)大事な退職金という資産ですから、大原則は「リスクを回避しながら安定して利益を確保できる運用」が肝要です。しかし、同じシニアでも状況は異なるので、お一人お一人に合った運用をする必要があります。

 

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